稽古場では様々なことが起こっています。世界各地でも様々なことが起こっています。見えないところで起きている酷いことから目を逸らせば楽しく生きていけるかもしれません。 ただ、それが出来ないとしたら。演劇では、ひたすら目の前にいる人たちと向き合う時間があります。 人がいることが演劇ともいえます。稽古期間には役者たちの発表が幾度も繰り返されるのですが、その発表の前に悩んでいる時間はとても豊かなものです。 その時間に起こっていることと、発表と、そこには大きな間があって、可能であれば何も変えてはいけない気がしました。 一人の人間が、とても豊かで良い人生を送りたいと思う時、そのことがとても困難なものであることを知っています。役者たちは人間です。見つめるべき現実です。バストリオの新作では、現実と舞台の間にあるものを見つめて、そこに微かに立ち上がってくるものにこそ価値を与えたいと思います。

今野裕一郎