Very Story, Very Hungry

聞き手:橋本和加子

杉本佳一 - Keiichi SUGIMOTO

杉本佳一

サウンドアーティスト/コンポーザー

FilFla、FourColor、Vegpherなどのサウンドプロジェクトで活動。杉本の作品はニューヨークの「12k」、「apestaartje」、ドイツ「TOM LAB」、日本の「HEADZ」など国内外の音楽レーベルからリリースされ、FourColorとしての作品「watter mirror」が英『THE WIRE』誌ベスト・エレクトロニカ・アルバムに選出されるなど、海外での評価も非常に高く、これまでにヨーロッパ各国をはじめアジア、オーストラリア、北米・カナダでライブパフォーマンスを行うなどグローバルな活動を続けている。また、これまでに数多くの映画/映像、演劇、エキシビジョンへの楽曲提供・制作、CM/web/企業VPのような広告音楽を手掛ける中、2004年カンヌ映画祭では宮崎淳監督による「FRONTIER」が監督週間おいて「若い視点賞」、2006年フランス・エクスアンプロヴァンス映画祭ではドイツ人監督Timo Katzによる「Whirr」が「オリジナル映画音楽部門賞」を受賞するなど実績も残している。これらの受賞をきっかけに 2007年フランス映画音楽作曲家協会(U.C.M.F)会員として登録される。

自身のアーティスト活動と並行して、1999年より音楽レーベル・イベントを運営する、CUBIC MUSICを設立。 World's end girlfriend、kyo ichinose、piana、No.9などの作品を国内外へリリース。12k、Hapna、TOM LABなど海外の電子音楽系レーベル/アーティストの招聘なども積極的に行っている。


『Rock and Roll』

橋本まずはじめに、お二人の出会いからお話を聞かせて貰えればと思うのですが。
杉本はい。
今野えっと、宮沢章夫さんがやってる遊園地再生事業団の『トータル・リビング1986-2011』という作品が、去年10月にあったんですけど、その時杉本さんが音楽を担当されてて、それで出会ったんです。僕は映像で参加してたんですね。
橋本杉本さんはそれまで、舞台の音楽をされたことは?
杉本オリジナルの音楽をいちから作ったのは、去年の『トータル・リビング1986-2011』が初めてでした。それまでは、僕いろいろ作品出してるんで、それを舞台とかダンスのカンパニーが使ってくれたことは 何度かありましたけど、ほんとにいちからっていうのは初めてでした。
橋本で、前回のバストリオの公演『Rock and Roll』で初めて一緒に作品を作るということにお二人はなったんですけど、『Rock and Roll』の楽曲制作の過程において、どういうことを意識して作られたかなど、その時の印象などあれば、はじめに聞かせて貰いたいです。
杉本あー……。もうタイトルがね、『Rock and Roll』なんでね……。まぁ何かしらロックな要素は入ってくるなっていうのは当然あったし、まぁロックってのはやっぱりすごくインパクトのある音楽だと思うので、そういう要素はすごく意識しましたね、作る前から。今野さんも音楽に力入れたいと言ってたんで。で、音も結構、ガツッと出したいみたいな話は最初からありましたよね。
今野そうですね。
杉本そういうのは意識してましたね、作る前から、うん。
橋本あれですよね、最初の方に上がってきた音楽が、『Rock and Roll』で一番最後に流れる曲で……。
今野いや、でも何曲か着て、その中に入ってたと思うんすよ。
杉本うんうん、そうですね。今野さんにはたぶんまとめて何曲か最初送ったりしてたので。でも稽古場ではあれが最初だったんですかね、わからないですけど。
橋本あれは結構初めに聴いた印象があって。
杉本あー、そうだったんですね。
橋本「あれいいな」って。興奮してました。
杉本笑。

橋本前回の時は戯曲があまり出来上がってない状態で楽曲制作やってたじゃないですか。今回は結構「音楽がここに入ります」みたいなのが決まってたりするんですけど、前とか、ここにこの音が使われるんだ、とかいうような感じの「驚き」じゃないですけど……、ああ、ここに使うんだな、みたいな、杉本さんの音楽と舞台の作品の世界が一緒に合わさった時とかって、観られてどういう印象でしたか?
杉本それこそ使う場所は今野さんから説明があったので分かっていたんですけど、さっき話にあった(『Rock and Roll』の)最後のシーンとかは、ああいう使い方をされて、すごく効果的に使われてたので、すごく感動しましたよね。一番ラストだし、ラストでガツッとああいう曲かかって、役者さんの演技もね、もうあの音楽が中心と言ってもいいくらいな演出になってて、ああ、そうなんだって思いましたよね。もちろん最後に使われるっていうのは意識して作ったというのは当然だけど、セリフも無いじゃないですか、あそこは。
橋本そうですね。
杉本動きだけで。すごい感動しました。そういう使い方だったんだって。
今野あれは良かったっすよ。あれをどこでかけるかっていうか。杉本さんはいつも「仮です」って言って、曲にタイトルつけて送ってくるじゃないですか。あれ「Rock」だったんですよ。タイトルが。なんで、わりと杉本さんからのメッセージ感あったんすよ。
杉本笑。でも、そうかもしれない。僕もなんか意識して「これだろ」っていうか。思い出してきましたけど、タイトルが『Rock and Roll』で「こういうことだろう」っていうのは最初からあった気がします。あの曲に関しては。その、最後になるかはわからなかったんですけど……。そうだそうだ。これが、こういう音楽で終わって欲しいなって意識があったのかもしれないし、その時……、あの音楽を作りたいっていうのは最初から意識してましたね。戯曲を読む前からイメージとして作っていた音楽ですね。ほんとに最初にイメージにあった音楽だったのでそのまま「Rock」と付けたっていう。全然名前とかのボキャブラリーが無かったんで。
今野でも名前がそうだったからじゃないんですけど、なんとなくたぶんその感覚があったんだろうなーっていう感じは送られた時にあって。で、取っておいたんですよ、作っていく過程の中であれは。で、最終的に劇中で女の子が壁にくっついてそこで曲を流すっていうのがなんとなく出てきてて、初めて稽古場で女の子たちが手を合わせるシーンで胸に手を合わせたあと壁に行った時に、iTunesに入れてたので、あれ流したんですよ。その時初めて聴いた役者たちがいて。そのままずっと曲終わるまで聴いてたんですよ。だからあの時の稽古場の雰囲気をそのまま本番に乗っけようとなったというか。
杉本へえー。
今野男性陣はその曲かかったら踊ってて。女の子たちは壁に背中つけていい顔して聴いてたから。もうこの曲だよな、っていう。
橋本あの時のことってすごい覚えてて、なんか、なんだろうな、なんか特別な時間になったというか、あの曲が流れた時に、突然稽古場が、あーこれで終わるんだなっていう感覚っていうんですかね。すごいイメージとして、あの曲を聴くという状態が、最後を迎えるにあたってすごいフィットしていたというか。最後なんか知り合いのライブを聴きに行くってなった時に、杉本さんの顔がすごい浮かんで。
今野あの舞台ね、終わった後に杉本さんのライブ行ったしね(笑)。あの曲はほんと良かったし、でももう、他の曲も本当に良かったんですよね。信頼が厚いというか、本当に曲に助けられるとこが多かった。まあ音楽の力が強いから音楽がかなり押し出されて行ったし、タイトルもそうだったから強くなっていったっていう、どっちもあったと思うんですけど、僕もあれかけた時は自分でかけて感動してましたからね。

新作

橋本今回、『Very Story, Very Hungry』っていうことで、まあ名前も全然違うし、作品自体も全然違う作品になっているんですけども、まあ今日ちょっと稽古を、全編通してではなかったんですけど、稽古の印象とかあれば、ちょっと聞かせて頂けますか。
杉本今日は4章まででしたっけ?
今野4の途中までですね。1時間ぐらいです。
杉本戯曲を先週もらって、まあ読んだんですけど、やっぱ見ないとわからないなっていう。
今野そうですね。
杉本で、見て、やっぱおもしれえなって思いましたね。その、すごく身体表現みたいなところを意識されてると思うんですけど、今野さん自体は。そういうのは、やっぱり戯曲だけ読んでも。特にバストリオの場合は。
今野僕のね、ホンの書き方が下手なんです、たぶん。ト書きがうまく書けないというか。なんか、羅列しちゃうから。同時に起こってることとかもなんか、順になっちゃうんですよね。
杉本まあでも、やっぱり面白いなって思うのは、同時に色んなとこで皆が動いてたりするのとか、すごい感覚的に見られるのが本当にバストリオ面白いなって。その考えなくていいっていうか。まあ悪い意味じゃなくて本当に、感覚で見られるというのがあるので、まあ見て良かったですね。
今野そうですよね。
杉本そうすると音楽も、仮に当ててもらってたのがあの、すでにハマってたので、逆にどうしようかなっていうのはあるんですけど、でもまあ、色んな意味でそういった意味でも見てよかったなというか。そのなんか、皆さんの場の雰囲気とかもあるんで、場の雰囲気に合わせるわけじゃないと思うんですけど、うん、なんかそういうのを感じて、自分なりにアウトプットをどうしようかなっていうのは考えられるから、すごくうん、なんか、やりたい、やりたいってやるんですけど(笑)、なんかね、ちょっと、定石じゃないものをちょっとやりたくなっちゃいましたね。今日もだから、さっきの話じゃないですけど、当ててもらってたんすけど、まあそれはたぶん僕もひとつの方向性として参考になった部分もあるけど、そこになんか、何かそれじゃないものも出せたらなって思いましたね。
今野いやでもまあ、合わせないのが杉本さんだと思ってるんで。
杉本まあ僕っていうのもあれだし、やっぱりせっかくこういうインディペンデントな形で活動してるから、バストリオって。商業的な舞台じゃないじゃないですか。だからそこはやっぱカッコつけて欲しいなっていうのと、僕がカッコつけたいなっていうので、ちょっと尖ったものを提供できたらなあと、よりいっそう思いましたね。そうじゃないとなんか、ねえ、バストリオ自体の存在意義とかもきっとあるだろうし。こう僕がなんか、ありそうな音楽作って、それまあ使ってもらってもいいんですけど、それだとちょっとやっぱ面白くないでしょうっていうところをすごく、そうですね。

安心するものじゃないものがいい

橋本『Rock and Roll』の本番の日にtwitterで感想をつぶやかれていたんですけど、その感想を読んだ時に、なんか杉本さんってやっぱりパンクの人なんだなって。
杉本なんですか?
橋本パンクの人なんだなって。
杉本パンクですか? パンクですよ。
橋本でもなんか、そう、今野もパンクの人なんですよ。
今野まあでもなんか、杉本さんが「安心するものじゃないものがいい」って話、たしかtwitterに書いてたと思うんですよ。
杉本あーはいはいはい。
今野で、僕もそうなんですよ。
杉本安心感が欲しくないみたいな、音楽にしろ演劇にしろ。偉そうなことを、演劇の何を知ってるんだお前はっていう(笑)。
今野いやでもそうだと思うんですよ。僕もそう思ってるから、嬉しかったんですけど。
杉本やっぱ自分の活動自体がすごくまあ端っこの方でやってたので、ずっと今もそうなんですけど、端っこの方でやってたんで、やってるんで、そういうのはもう、ダメなんですよね、受け付けないんすよね。
今野駄目なんですよねー。
杉本駄目なんですよ、そうそうそう。
今野ほんとに駄目なんです。
杉本ほんとに駄目で。
今野どうにも出来ないんですよ。
杉本別に駄目って思っちゃうのは自分の勉強不足かもしれないんですよね。
今野そう。自分が悪いと思うんですよ、面白いと思えないのは。
杉本そうそう。
今野悩むんですよ結構、落ち込むというか。
杉本まさにそれ。
今野みんなはワーってなってるじゃないですか。
杉本泣いてたりしてね。でももうちょっと心を広く持つと僕はそこじゃなくていいのかな、って改めて、2周ぐらいして、やっぱいいかって。
今野(笑)。うん。

橋本Vegpherやり始めたじゃないですか?
杉本はいはい。
橋本プロジェクト始動しはじめて、それって杉本さんの中で何かあるんですか? 2周まわってっていう感じが。
杉本んー、まあでも音楽に関しては僕本当自分の欲求を満たしているだけなんで、作りたいものを、音楽は色々あるんで、とにかく色々作りたくて、それを満たす為に色々やっていて、まあでも一貫して言えるのはやっぱり自分ってオーバーグラウンドな人じゃなくて、すごいアングラな人なんだなって。悪い意味じゃなくて、それがいいとかじゃなくって、自分はそこで出来ることを、とにかくやろうということと、やっぱり音楽に関しては、歳もとってきて技術とかも付いてきて、そういうものがついた上で今の音楽のシーンを覗いて何が足りないかなというところを、埋められるような世代になってきたと思うので、ある意味提案と言うか、そういうのも強いですね。こないだのVegpherとかはそうなんですけど、まあ、少しまたクラブミュージックっていうのが盛り返してきてるかなって肌で感じてて。90年代ってすごいクラブっていうものが流行って、日本だと。で、ちょっと減衰したんですけど、またちょっと元気でてきたかなっていうところがあるんですけど、でもやっぱり当然10年も経つとシーンも、同じクラブミュージックでも音楽自体が変わってくるわけですけど、その中でかっこいいものってこういうものだろっていうのをちゃんと提示したいなっていうのがあって、ちょっと今のクラブミュージックに足りないなってところをちゃんと提示してあげるっていう、上から目線みたいで嫌なんですけど、でもまあそのぐらいの歳になってきたんで、そういうこともしないといけないなっと思って始めたっていうのも理由のひとつとしてある。でも最大の理由は自分が作りたいから。
今野そうですね。
杉本それは今野さんとかもそうだと思うんですけど、自分がやりたいからやるだけで本当はそんな理由はかっこつけです。
一同笑。
橋本なるほど。
杉本楽しいんですよ、稽古とかも楽しそうじゃないですか。
橋本いやー、そうですね。
杉本わかんないですけど、辛いと思ってる人もいるかもしれないですけど(笑)、役者さんで。
今野笑。わかんないですけどね。
杉本わかんないですけど、出来たときの感動というか、充実感というか達成感というか、代え難いものがある。それと一緒で作りたいだけなんですけどね色々。御託を並べるんですけどね、聞かれると、いい加減大人なこと言わないと。
今野・橋本笑。
今野そうですよねえ。
杉本全然関係無いこと話しちゃいましたけど。
今野・橋本いえいえいえ。

みんなへ

橋本最後の質問になるんですけど、今回観に来てくれる方々に一言ありましたら、メッセージ的な。まあBankARTって言う場所自体特殊なところじゃないですか、音が響いたりとか。
杉本音に関しては、台詞も含め音の部分、難しいですけど、利用出来ないこともないですよねあの響きを。戯曲の中にもありますけど、水が垂れる音とか、そうとういいんじゃないかなと。
今野うん。
杉本まあなんか、今日もステージの話ちょっとしたんですけど、技術的な部分でカバー出来るところはカバーすればいいと思うし、そこでなんか音楽を、まあ工夫するんですけど環境に合わせて、そこでやっぱり 自分のイメージを押さえちゃうんじゃなくって。
今野そうですね。
杉本まあ、ぼくがとりあえず作りたいものを作らせてもらおうかなっていう(笑)。
今野それでいいと思います。
杉本ハマるか分かんないですけど。
今野やってみないと分かんないですね。
杉本でもなんかそうですね、Nibrollの話になるんですけど、なんかすごい刺激受けて、やっぱやるとこまでやらないと駄目なんだなって思って。まあダンスと演劇なんで違うと思うんですけどかもしれないですけど、でもなんかやっぱりなんだろう、つっこみ方と言うか、攻め方ですよね。僕としてはなんか引いちゃ駄目だろうと言うか、引くグループではないというかバストリオは。
今野引かないですね。
杉本まあ、とにかく好きなもの作らせてもらって、合わなかったら合わなかったで省いてもらえば良いし、現場行きながら調整出来れば調整してかっこよく、まあ最終的にかっこよくなればいいかなと思ってます、ので観に来て下さい。
今野・橋本笑。
杉本無理矢理締めちゃった(笑)。なんか質問から外れちゃったな。
橋本いやいや全然。
杉本戻さなきゃって思いながら。
今野でもそういうことですよね。
杉本まあ要は、前回もそうですけど、かっこいいものになるはずだと僕も信じてるので、今野さん次第ですけど(笑)。僕は自分が最高にかっこいいと思うものを作って、提供してっていう、それは前回も一緒で、今日の稽古を見せてもらってやっぱバージョンアップしてるなってすごく感じたんで。
今野本当ですか?
杉本いやー、すごいよかったですよ、偉そうにあれですけど(笑)。
今野・橋本笑。
杉本すごいなんか進化してると思って。
今野本当ですかそれは嬉しいです。
杉本はい、ほんとよかったですよ。だから間違いなく前回よりはかっこよくなるはずだという。
今野本当ですか、じゃあ頑張ります。
杉本よろしくお願いします。

(2012年8月 都内某所にて)

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