Very Story, Very Hungry

聞き手:平石はと子

告鍬陽介 - Yosuke TSUGEKUWA

告鍬陽介

1984年熊本県生まれ。中学時代より、エッシャーなどに代表されるだまし絵からインスパイアを受け、テキスタイルのデザインを始める。さまざまなジャンルのサブカルチャーの要素を取り入れながら独自の世界観を表現したテキスタイルが好評を博し、兼ねてより構想にあった自身のテキスタイルを洋服に落とし込んだブランド、「catejina」をスタート。
2012 A/Wより、本格的に始動。

catejina

ブランドコピー「不条理の繰り返しを使用した日常着」
連続するもの、繰り返すもの、永遠に途切れる事がないもの。例えば、テクノのビートであり、録画されたアニメのループ再生であり、何週も出来るゲームであり。 過去 今 未来 と区切った時の今であり。
そんなところから発想を得たオリジナルのテキスタイルを主軸に、 身につける事によって、少し外に出たくなるような。そんなアイテムを提案する。「aquvii東京」「中目黒凹」にて取扱中。
www.catejina.com

安食 真 - Makoto ANJIKI

安食真

1985年北海道生まれ。
ファッションデザイナー / 衣装家
STUDIO NIBROLLの矢内原充志に師事した後、告鍬陽介と共に「irishcream」としてブランド、衣装活動を行う。現在は個人名義で布に携わる全てに目を向け、多岐に渡る活動をしている。

代表作品

  • 2007年 ミクニヤナイハラプロジェクト2『青ノ鳥』(衣装)
  • 2008年 松本力 × organ-o-rounge × irishcream『TIME BOGUN』(インスタレーション)
  • 2009年 ASA-CHANG & 巡礼『JUNRAY DANCE CHANG アオイロ劇場』(衣装)
  • 2010年 遊園地再生事業団『ジャパニーズ・スリーピング/世界でいちばん眠い場所』(衣装)
  • 2010年 バストリオ『まるいじかんとわたし』を皮切りに、バストリオ作品すべての衣装を手がけている。


三人の出会い

平石まず、三人の出会いを聞かせて頂きたいです。
告鍬宮沢(章夫)さんの舞台『ジャパニーズ・スリーピング』で、衣装を僕と安食でやらせて頂いて。で、それで今野さんとはお会いしたんですけど、最初らへんは全然話してなくて。
今野全然話してなかったよね。
安食全然関わる時間もなかったですよね。
今野衣装のデザインとか持ってきたときに「あ、来てる」というぐらいだった。俺も映像のスタッフで忙しかったりするからあんまり。
安食そうですね。
今野たぶん本番始まってからだよね。
告鍬あとその、僕仲良くなりたかったんですけど。
今野笑。
告鍬笑。「萩の月」を今野さんが仙台の方から。
今野うちの母親が差し入れで持ってきたんですよ。
告鍬「萩の月」が置いてあって、頂いて。で「これたぶん今野さんだよ」って言われて今野さんに「いただきました」って言ったら、そっからちょっと。
今野笑。「萩の月」きっかけ。
告鍬「もっと食べなよ!」みたいな。
安食そんなんだったの?
告鍬僕はそれで距離が。
今野告鍬くんはその印象がすごい強い。で、「話したかったんですよー」って言ってくれて。
告鍬そうそうそうそう。
今野俺が近寄りづらいタイプっていうのもあって。
平石あー。「あー」とかいって(笑)。
今野「あー」じゃないよ。
安食その後、遊園地再生事業団の打ち上げで、わーわーみんなで話してて。
今野うん、そうだと思う。
安食そこでなんかこう同世代っていう話なんかもしてて。
今野山村さんがね。(『ジャパニーズ・スリーピング』に出演していた女優の山村麻由美)
安食山村さんにね。
告鍬「今野君もやってるよー」って。
安食っていうのを聞いて。
今野「一緒にやったらいいんじゃない?」みたいなことを山村さんが言ったのかな。
告鍬酒の席ってそれで終わっちゃうんだけどね。
今野うん、話だけでね。
告鍬でもそっからすぐ今野さんからレスポンスが来て。
今野その次の月に京都でやるやつをやってくれない?って頼んで。
安食けっこうすぐに新宿の喫茶店で打ち合わせが始まって。
今野あったねー、コーヒー屋で。
告鍬そうだ(笑)。
今野で、話早かったんだよね色々。
告鍬そうそうそうそう。
安食そこで初めてちゃんと喋ったって感じでしたよね。
今野そうだと思う。
告鍬橋本(和加子)さんもなんか、しおらしいと言うか……。
平石・告鍬笑。
今野まだ緊張してる頃。
告鍬すごいしおらしい人だったねーみたいな。
一同笑。
今野今はそんな人いない(笑)。そうだね、あのコーヒー屋で京都での舞台『まるいじかんとわたし』の衣装を二人に頼んだのがたぶん、しっかりした出会いだと思いますけどね。
告鍬うん。
安食そうですね。
今野それで、とにかくすごい話が合ったっていうのがあって。
告鍬そうですねー。
今野早いんだよね、話が。「あーわかるわかる」みたいな。あんま説明いらないから、すぐとんとんと決まって。その舞台なんかはもう衣装送ってもらってバチッとあったみたいな舞台だったから。
安食そうですね、京都行けなかったし、時間もなかったから、本当に送るだけ、服だけ送って。
今野うん。
安食で、上演の記録をあとで見せてもらった感じなんですけど、すごいピッタリでしたよね。
今野そうですね。
安食すごくいいかんじでした。
今野それが出会いだと思います。

相性

平石これまでバストリオの作品『まるいじかんとわたし』『絶対分からない』『Rock and Roll』と3作続けて衣装を担当されていて、今回で4作目となりますが、とても相性が良いのではと感じる人もいるかと思います。三人はどのように感じていますか?
安食最初からすごく感じは合ったというのは感じていて、それでやっぱりお互いをよく知るようになってからも、やっぱりバストリオはこういうふうにやりたいなっていう、ただ自分たちがやりたいことだけじゃなくて、バストリオはこういうのがいいよね、というふうに変わっていって。同じ方向を向いて、最初はぶつけるだけだったんですけど、今はどんどんどんどん同じ方向にぐいぐい引っ張りながら、(告鍬そうだね。)作っていけてるんじゃないかなと思います。
今野どうですか?
告鍬ほんとにもう、おなじく(笑)。
告鍬だいたいあんま直しが無いよね。
安食そうですね。
告鍬持ってったときに。
今野たしかにね、直しあんましないね。でもなんか自分らの感じで安食くんも告鍬くんもやるから、それがいいんですよ僕的には。変に合わせて気使われる人だと逆に僕やりにくいから。自分らのこの感じでどうかな、っていう。だから、まあこれは全然今の自分のバストリオじゃないけど、空気公団の時(2012年7月に日本橋公会堂で行われた空気公団とのライブ『夜はそのまなざしの先に流れる』)安食くんが衣装やってたけど、あのときも「紐」って言ったのに、こんなでかい着ぐるみみたいなのを付けてきたときに、あ、やるなーと思って(笑)。たぶんああいうのも俺らが思ってるのじゃ全く無いのがきてるんだけど、そういうのが嬉しいというか、俺は。それをどう使おうかなって思えるから。
安食それを喜んでもらえるのと実際すごい使ってくれるっていうのが、すごくいいですよね。
今野たしかにね、人によっちゃね。
安食使い道ないですからね、普通に(笑)。今うちにあの(空気公団のライブで使用した)すごい太いやつ、しっぽ付いてるやつもありますけど、まあどうしようかなって感じで仕舞うだけですからね。そういうのつくれる機会ってなかなか無いので。
今野そういう感じだと思いますけどねー。

二人から見たバストリオ

平石では、二人から見てバストリオ、今野の作品のどんな所に惹かれていますか?
告鍬えーと、僕はやっぱり、自分の考えてるのと全然別の何か、お話というか、自分じゃ絶対思いつかないと思うし、見ててその、展開がどんどん変わってくじゃないですか。別に起承転結とかじゃなくて、起起起転とか。なんかそういうのを見てて、その考え方とか作り方ってすごい面白いなと思うし、見てても全然退屈しないし。っていう作り方がすごい好きですね。あと音楽の使い方とかもすごい好きですね。
今野音楽ね。安食くんどうですか?
安食僕も作品に凄く過程が活きるというか、やっぱり作り方が。普通に話を書いてそれにこう当てていくのではなくて、何かこう生み出されて行く話が、今野さんによってまた一つずつグワッて繋がっていくっていう。その作り方とまとめるセンスというか、それがやっぱり凄くて、最終的にできたものが全然思っていたものと違って、またすごく面白くなっていたりとか。そういう発見が毎回あったりとか、役者さんたちの発表とか見てても色んな発見があって、すごく刺激的な舞台だなっていうのが一番感じますね。
今野まあでもやっぱり現場は刺激あるよね。なんか。毎回毎回。人が違えど。どんな感じでも。やっぱ毎回新しい感じがしてるから。まだ全然楽しめるから。これが、そういう感じがなくなっちゃったら、まあやめちゃうんじゃないかなっていう気がするから。今、そういうのを、まあそれを新鮮にやり続けるのって大変だから。だから結構ね、ずっとやってきて、今回頼んだ時も、「もう終わりかとて思ってましたよ」って告鍬くんが言ってて。「新しい人とやる人だと思ってるから」みたいな話だったんだけど。
告鍬うん。次はもう違う人なのかなとか思ってて。
安食なんで?なんで?
告鍬いやほら、役者さんもどんどん変わっていくからさ。その血の巡りを良くするスタイル。
今野なんか色んなものを入れようとしてるっていう。
告鍬そういうスタイルなんだなーって思ってたからさ。なんかね、だいたい同じ人とかでやるじゃないですか、僕あんまり詳しくないですけど。
今野まだいける気がするというか。感じがする、よね。全然。だから例えばそれで言ったら、(平石)はと子とかもね。ずっと一緒にやってるし、狗丸(トモヒロ)くんとかもそうだけど。でもなんか、ずっとやってるから新しいことができないっていうのは嘘だと思ってるから。まだ全然できるだろうっていうか。その代わり、あの、それぞれで刺激を自分で得ておいて、会えるようにしたいなっていう感じはあるから。緊張感はあるからね。だから全然やっていきたいとは思ってるんですけど。

制作過程

平石創作において、どのような話をして衣装美術の製作を進めていますか? お互いのやりとりのことなど教えて頂ければと思います。
安食やっぱりバストリオと一緒にやる時は、ヴィジュアルとして綺麗なものとか。例えばこう話が、キャラクターがしっかりあるから警官だったら警官の服とか、そういうのが全くなく……、なんかほんと新しい街、というか村というか、そういう一個の民族みたいな、新しいものをとにかく生み出していくっていう感じなので。とにかく、そういう点でもすごく好きなことをやらせてもらってるかなっていう。
告鍬最初すごい単語でもらうの。「アイヌ」とか。色だとか。「ピンク」とか。「牧場」とか。
今野あ、メモがね。
告鍬その色だとか。ピンクとか。牧場とか。でも結構、僕がもらったメモの中で言うと、色が似てるなというか。そのまあピンクとかの色じゃなくて、言葉で並べた時に、雰囲気がやっぱり、ああ今野さんが選ぶ言葉なんだなあ、というのはすごい思います。メモを頂いた時に。今回こういう風にやるよって。
今野今回は最初に、まあメインで告鍬くんが衣装だから、告鍬くんと児玉(悟之)に投げてて、最初三人で結構喋ってて。
告鍬そうですね。
今野チラシの段階から結構、告鍬くんも入って、メールのやりとり結構したよね。
告鍬長文メール。
今野いや、なんかでも、結構、児玉にとっても刺激があったみたいだからやっぱ。告鍬くんとか安食くんと話して、今まで京都に彼がいたからあんまり二人とコミュニケーションとってないのが結構残念な思いしてて。で、児玉もやっぱ話合うのわかってるから、入れてやれんのが一番いいのになとか思ってたけど、今回来てるから。まあだからメールのやりとりとかも、その分やりやすくなったっていうのがあって。最初はモチーフというか、本当に何でもない単語からしか始まってない感じはしますけどね。

『Very Story, Very Hungry』

平石今回の作品の印象など、稽古を見た感じでどう思われましたか?
今野今日のことじゃん。
告鍬僕、すごい笑った、笑う場面がすごく……。
安食結構笑いがあるよね。すごくね。
告鍬やっぱ、ねえ。バストリオの現場ってすごいいいなーと思いますよ。
安食やはり今回単純に人数が今までと全然違うので。空間もすごく広い。
今野いろいろ違うよね。
安食本当もう、そこが一番違うっていうのはとても感じましたね。それぞれの役割とかも、今までだったら少人数でもっともっと細かいというか、もっと密な感じだったのが、もうちょっと全体的にふわっと広がっていて、でもみなさんそれぞれぐっと突き詰めていくというか。今までより作品が広がってるな、と。人が増えたぶん特に感じました。
今野今回初めて美術やってるじゃん。それについてはどうですか。前に一緒にやった時、「美術ちょっと頑張りたいですね」って二人で話してたじゃん。それで「僕がやりますよ」って言ってくれたんですよ。
安食前回もいろいろ細かいことはやったんですけど。
今野前回もやってくれたんだよね。
安食前回は狭かったので。今回はすごく広い空間なので、それをバストリオらしくやっていく為には、美術っていう部分がしっかりあった方が面白くなるってすごく思ったんですよね。美術ってそんなに出来ることはあまりないとは思うんですけど、最初にあるメモとか、そこから始まって、でエリアにも火とか水とか土とか木とか、何か象徴になるものを組み込んでみたりとか。あと風通しの良い感じの空間にしたいなーと思ってます。
今野なんか、野外でやってみたいよね。
安食ああ野外もやってみたいですねー。
告鍬面白い。
今野やってみたいんだよなー。風も吹くし。

みんなへ

平石最後に、観に来てくれる人に一言、お願いします。
今野どうなんでしょうね(笑)。まぁでも横浜ですからね。
安食観にも来やすいですしね、電車で。それにやる期間も前より(長い)……?
今野それはおんなじ(笑)。
安食おんなじでしたっけ。
今野ちょっと1回少ないくらい、意外と(笑)。
安食嘘情報伝えるとこだった(笑)。
安食さっきから場所の話をしてるんですけど、今まで小さい所で、近い距離感で楽しめることがあって。今回同じように近さもあれば、離れた場所もあったりとか、空間が広くて人数も多くてパワーアップしてるので、そういうところを楽しんでもらえばと思います。
告鍬是非……、なんでしょうね……。普段演劇とか見に行かない人が来ても楽しめると思うし、映画が好きな人とかも観に来てほしいし……。すみません、こんな言い方で(笑)。
今野笑。難しいよね。でも、なんかそうなんだよね。
告鍬演劇ファンに限らず、初めて演劇を観に来る人も……。たぶん初めて観る演劇って大事というか、初めて観るものがアレだったら、アレかもしれないんですけど。
今野アレだったらって何(笑)。
告鍬でもそういう人達にも、僕が自信を持って勧められる舞台だと思うので、是非観に来て下さい。
安食いいこと言った(笑)。
今野まぁでも、(衣装は)二人とやってきてるんで。まぁ上がってってるなと思うけどね、二人との感じが。それを是非見て貰えたらなぁと。毎回衣装のことは褒めて貰えるし。さらに空間にも、二人の感じが出始めれば。一緒のことだと僕は思うので、目に見えるものとして。それがフラットに、良く、それぞれ存在出来れば面白いものになると思うので。是非観に来て欲しいですねー。

(2012年8月10日 墨田区「横浜飯店」にて)

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